高機能粘着剤

粘着剤は、すぐに貼り合わせができ、必要な時に剥がすことができる接着剤の一種である。梱包、エレクトロニクス、光学、自動車、建築建材、医療などさまざまな分野で幅広く利用されている。特にエレクトロニクス・光学分野や医療分野では、軽い力でしなやかに剥がせる再剥離性や、粘着特性の安定性などが重要な機能となる。

本稿では、これらのニーズに応えるべく開発中のウレタン系粘着剤『ポリシックUP』シリーズを紹介する。

粘着剤に求められる物性

粘着剤がくっつくためには、触れた時の粘着性「タック」や、目的に応じた「粘着力」が求められる。接着を維持するためには、せん断に耐える「保持力」も必要である。一方で、きれいに剥がせる再剥離性も求められる。

これらの一見相反する機能は、粘着剤が粘弾性体であることにより実現できる。粘着特性は動的粘弾性の挙動と関係があり、粘着力や保持力を増加させるためには貯蔵弾性率(G')が高い方が好ましい。しかし弾性率が高すぎると、粘着剤として硬くなり、被着体との界面における粘着性が不足する。

電子・電気・光学用途や医療用途では、デリケートな部材や皮膚などに悪影響を及ぼさないよう、粘着特性を精密に制御する必要がある。時間、温度、剥離速度などの外的要因によって粘着特性が大きく変化しないことが重要である。

粘着剤の種類とそれぞれの特徴

粘着剤には、アクリル系、ゴム系、シリコーン系、ウレタン系などがある。アクリル系・ゴム系粘着剤は、微粘着から強粘着まで幅広く設計でき、比較的安価で最も広く使用されている。一方、時間・温度・剥離速度などの外的要因への依存性が大きい。

シリコーン系・ウレタン系は、これらの依存性が比較的小さく、幅広い環境で安定した粘着力が得られる。シリコーン系は高価で、低分子シリコーン成分が被着体へ移行して汚染の原因となる場合がある。ウレタン系粘着剤は、時間・温度・剥離速度などへの依存性が小さく、耐油性や耐摩耗性に優れ、被着体へのぬれ性・接着性や透湿性にも優れる。

アクリル系とウレタン系粘着剤のG'・G''・tanδの温度依存性を比較するグラフ
図1 アクリル系(左)とウレタン系(右)の弾性率の温度依存性

アクリル系は温度が上昇すると軟らかくなり、粘着力低下やのり残りが発生しやすい。温度が低下すると硬くなり、貼り付けが難しくなったり、剥がしづらくなったりする。ウレタン系は粘弾性曲線が比較的平坦であり、温度依存性が小さい。

アクリル系とウレタン系粘着剤の周波数依存性を比較するグラフ。ウレタン系は剥離速度による粘着力変化が小さい
図2 アクリル系(左)とウレタン系(右)の弾性率の周波数依存性

高周波数領域の粘弾性応答は、粘着剤を速く剥がす時の挙動に対応し、低周波数領域はせん断クリープなどのゆっくりした動きに対応する。アクリル系では剥離速度による粘着力の変化が大きいが、ウレタン系では周波数依存性が小さく、剥離速度による変化が少ない。

ウレタン系粘着剤

ウレタン系粘着剤は、主剤であるポリオール(OH)成分と、硬化剤であるポリイソシアネート(NCO)成分に添加剤などを混合し、フィルムなどの基材に塗工して加熱・架橋・硬化させることで粘着層を形成する。時間・温度・剥離速度などへの依存性が小さく、耐油性や耐摩耗性に優れる。

一方で、ウレタン基の高凝集力により粘着力の調整が難しいこと、凝集力や架橋密度を下げて粘着力を出そうとすると粘着層の強度が低下してのり残りにつながること、高分子量化が難しく適切な粘度に調整しづらいことなどの課題があった。

『ポリシックUP』シリーズ

『ポリシックUP』シリーズ(開発品)は、これらの課題を解決したウレタン系粘着剤である。キーとなるのは、三洋化成独自の高分子設計技術により開発した専用の特殊ポリオールである。原料となるポリオール中に存在する、粘着剤物性に悪影響を与える成分を大幅に低減することで、従来のウレタン系粘着剤の問題点を解決している。

特殊ポリオール導入による塗工性向上・膜強度アップ・安定粘着力への流れを示す相関図
図3 特殊ポリオール導入がウレタン系粘着剤に与えるメリット

特殊ポリオールの導入により、プレポリマーの高分子量化、実質官能基数の増加、不純物・低分子量成分の低減が可能となる。これにより、粘度アップによる塗工性向上、膜強度アップによる凝集破壊防止、安定した粘着力、被着体汚染の低減などが期待できる。

従来品とポリシックUPシリーズの架橋構造の違いを示す模式図
図4 架橋後のウレタン樹脂のイメージ

従来のウレタン樹脂では架橋不足の部分があり膜強度が低くなる場合があった。『ポリシックUP』シリーズでは実質官能基数の増加により架橋密度を高くでき、粘着剤層の凝集力や膜強度の向上に寄与する。

『ポリシックUP』シリーズの主な特長

1. プレポリマーの高分子量化 分子鎖の絡み合い効果が強くなり、粘性を維持しながら弾性率を向上させる。比較的架橋密度の低い中 - 強粘着系でも十分な膜強度を保つことができる。

2. 実質官能基数の増加 従来のポリオールよりも実質官能基数を増加できるため、硬化後の架橋密度を高くできる。無溶剤系ウレタン粘着剤でも十分な膜強度を確保しやすい。

3. 不純物・低分子量成分の低減 時間経過に伴う粘着力の増加、被着体汚染、のり残りの発生原因と考えられる成分を低減し、長期にわたって安定した粘着特性を発揮する。

基本物性

現在は、溶剤系・微粘着の『ポリシックUPW』シリーズと、無溶剤・中粘着の『ポリシックUPS』シリーズの2グレードを開発中である。

表1 『ポリシックUP』シリーズの基本物性

項目微粘着タイプ(溶剤系)中粘着タイプ(無溶剤)
主剤ポリシック UPW-1(OH末端プレポリマー)ポリシック UPS-1A(OH末端プレポリマー)
硬化剤ポリイソシアネートポリシック UPS-1B(NCO末端プレポリマー)
主剤/硬化剤(重量比)98/260/40
外観無色 - 淡黄色液状無色 - 淡黄色液状
粘度(mPa・s)約10,000約20,000
純分(%)50(酢酸エチル)100(無溶剤)
分子量 Mw約60,000約20,000
粘着力(N/25mm、対ガラス、粘着膜厚40μm)0.0412
保持力(mm/24h)0.00.0
Tg(℃)-20℃以下-35℃以下
透明性(ヘイズ)0.3(100μm)0.3(40μm)
屈折率1.471.46

お取り扱いの際は当社営業までお問い合わせください。また必ず安全データシート(SDS)を事前にお読みください。使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任において判断してください。

期待される用途

表2 期待される用途

粘着力用途活かせる『ポリシックUP』の特長
微 - 弱粘着電子材料・光学フィルムなどの製造・出荷時の傷、汚れ防止をするための保護フィルム粘着特性の安定性、再剥離性、低汚染性、ウレタン膜強度、帯電防止性
微 - 弱粘着自動車用や建築用などの部材の貼り合わせやマスキング粘着特性の安定性、耐久性・耐候性
中 - 強粘着タッチパネルやディスプレイ部材などの貼り合わせ粘着特性の安定性、低汚染性、温度依存性小
中 - 強粘着電気電子部材や光学部材を次工程で加工するための部材保持・搬送粘着特性の安定性、低汚染性、再剥離性、剥離速度依存性小、帯電防止性
中 - 強粘着医療用チューブ・カテーテル固定用の粘着テープ、医療用フィルムドレッシング材、サージカルテープ、絆創膏、ウェアラブル用途などアクリル系に比べて残存モノマー・残存溶剤をほとんど含まず、低臭気・低皮膚刺激性・高透湿性により快適性が向上

粘着力の表記については特に決まりがあるわけではないが、本稿ではガラスへの粘着力を目安に、微粘着: 0.1N/25mm以下、弱粘着: 0.1 - 5N/25mm、中粘着: 5 - 10N/25mm、強粘着: 10N/25mm以上と定義している。

今後の展望

ウレタン系粘着剤は用途によって使用機会が増えてきたが、アクリル系、ゴム系、シリコーン系に比べて認知度はまだ低い。『ポリシックUP』シリーズは、アクリル系・ゴム系粘着剤では発現できなかった機能を付与したり、高価なシリコーン系粘着剤を代替したりするなど、さまざまな展開が考えられる。今後、『ポリシックUP』シリーズが広く使用され、末端製品の性能、品質の向上や生産性の改善に貢献することが期待される。

参考文献

  1. 重森一範、越智光一: 日本接着学会誌、38(10)、2(2002)
  2. L.H.Lee: Adhesive Bonding、97(1991)
  3. 佐藤弘三: 日本ゴム協会誌、69(12)、44(1996)
  4. 大槻司、重森一範: 日本接着学会誌、36(6)、15(2000)

本記事は三洋化成工業株式会社の許諾を得て転載しています。
出典:三洋化成ニュース 2019 秋 No.516 / 著者:島田 哲也(事業研究第一本部 ウレタン樹脂研究部 ユニットマネージャー)

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