フィルム・シート成形用高分子型帯電防止剤

プラスチックは、成形性、軽量性、電気絶縁性などの優れた特性を有し、家電・OA機器のハウジング、電子部品の搬送用トレーや包装材料、自動車内装材などで広く使われている。しかし、一般に電気絶縁性で表面が帯電しやすいため、ホコリや汚れの付着、静電気放電による電子機器の損傷や誤作動、スパークによる火災や粉じん爆発などの問題が生じる。

このような静電気に由来する問題を回避するため、使用目的に応じてプラスチックの表面固有抵抗値を制御する。その制御方法の一つが帯電防止剤の使用である。

プラスチックの帯電防止の目的と水準

表1 プラスチックの帯電防止の目的と水準

表面固有抵抗値(Ω)帯電現象帯電防止の目的応用例
1013静電気が蓄積する(絶縁)(絶縁材料)
1012 - 1013帯電するがゆっくり減衰静的状態での障害防止ホコリ・汚れの付着防止
1010 - 1012帯電するがすぐ減衰動的状態での障害防止電気ショックの防止、誤作動の防止
108 - 1010帯電しない蓄電防止電子部品・回路の保護
107 - 108帯電しない導電性付与各種半導体材料

帯電防止剤

プラスチックの帯電防止には、帯電防止剤を用いてプラスチック自体を導電化する方法が一般的である。界面活性剤を使用する方法では、プラスチック表面に存在する親水性の高い界面活性剤が空気中の水分を通して静電気を漏えいさせる。しかし、効果の持続性に乏しく、水洗いや布拭きなどで界面活性剤が脱離すると効果が低下する。低湿度下で帯電防止性が不足しやすいことも課題である。

カーボンブラックなどの導電性フィラーを添加する方法は、湿度依存性がなく効果の持続性に優れるが、一般的に約20 - 30質量%の添加量が必要であり、衝撃強度などの樹脂物性の低下や外観不良、成形性の悪化が生じる。カラフルな着色が難しい、フィラーの脱落により接触物を汚染する、といった問題もある。

高分子型帯電防止剤

近年、プラスチックとアロイ化させることで内部に導電回路を形成し、帯電防止性を半永久的に保持する高分子型帯電防止剤が注目されている。永久帯電防止剤とも呼ばれる。

三洋化成は1994年に高分子型帯電防止剤『ペレスタット』シリーズを上市した。『ペレスタット』は、PEO鎖を有する特殊ブロックポリマーで、ABS樹脂、HIPS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂などの各種プラスチックへ10質量%程度添加することで永久帯電防止性を付与できる。

帯電防止剤が粒子状に分散した状態から筋状の導電回路へ変化する過程を示す模式図
図1 高分子型帯電防止剤の帯電防止性の発現機構

プラスチック表面に蓄積した電荷を逃がすためには、適度な導電性を有する材料で導電回路を形成する必要がある。『ペレスタット』は、樹脂中で筋状に分散することで導電回路を形成する。筋状ネットワーク構造は、溶融混練時の分散と成形時のせん断応力を活用することで形成される。

『ペレスタット』の主な特長は、成形直後から優れた帯電防止性を発揮し半永久的に持続すること、プラスチック自体の機械特性や表面特性を著しく低下させないこと、熱安定性に優れること、各種プラスチックへの分散性が高いこと、低湿度下でも高い帯電防止性を発揮すること、ブリードアウトがなく接触物の汚染が少ないこと、顔料で任意にカラーリングできることなどである。

高性能タイプの高分子型帯電防止剤『ペレクトロン』シリーズ

『ペレクトロン』シリーズは、三洋化成独自のPEO鎖を有する特殊ブロックポリマーの組成を見直し、帯電防止付与技術をさらに進化させたものである。『ペレクトロン』自身の表面固有抵抗値をPEO鎖のイオン伝導性を最大限に発揮する組成により106 Ωまで低くし、分散制御技術と組み合わせることで、少ない添加量でより低抵抗領域の永久帯電防止性を付与できる。

ペレクトロンASと各種カーボンフィラーの添加量と表面固有抵抗値の関係を比較する散布図
図2 『ペレクトロンAS』またはカーボンフィラーの添加量と帯電防止性の関係

テストピース作成方法: 変性PPE樹脂と『ペレクトロンAS』またはカーボンフィラーのドライブレンド物を単軸押出機で混練し(混練温度: 270℃)、射出成形機を使用してテストピースを作成した(射出成形温度: 270℃、金型温度: 80℃)。

電子部品・回路の保護には、プラスチックの表面固有抵抗値を107 - 109 Ω程度に制御する必要がある。表面固有抵抗値が高すぎると静電気により、低すぎると直接放電により、電子部品・回路が破壊される恐れがあるためである。図2から、『ペレクトロンAS』は表面固有抵抗値を安定して107 - 109 Ωに制御できることが分かる。

フィルム・シート成形用高分子型帯電防止剤『ペレクトロンLMP-FS』

帯電防止ニーズは、PE系樹脂が主に使用される液晶表面保護フィルム、各種包装材料、防災・防爆対策が必要なフレキシブルコンテナバッグ内袋などのフィルム用途にも存在する。こうした用途に対応する永久帯電防止剤が求められてきた。

従来の『ペレスタット』や『ペレクトロン』は融点が約135℃以上であり、PE系樹脂のような比較的低い成形温度が要求される場合には十分な帯電防止効果を得にくかった。今回開発した『ペレクトロンLMP-FS』は、基本組成を見直し、溶融粘度も最適化することで、融点を約115℃まで低くするとともに、PE系樹脂に対する分散性を向上させた。

ペレクトロンLMP-FS添加成形品表層部の断面TEM写真。白い筋状部分が導電回路
写真1 LDPE樹脂/『ペレクトロンLMP-FS』成形品表層部のTEM写真

黒い筋状に見えているのが『ペレクトロン』である。フィルム・シート成形においても、筋状の導電回路を効率的に形成できる。

ペレクトロンLMP-FSの添加量とLDPEフィルムの表面固有抵抗値の関係を示す折れ線グラフ
図3 『ペレクトロンLMP-FS』の添加量と帯電防止性の関係

試料作成方法: LDPE樹脂と帯電防止剤のドライブレンド物をインフレーションテスト機を使用して成形し試料とした(ダイ温度: 170℃、ブロー比: 2.0、フィルム厚: 約100μm)。

『ペレクトロンLMP-FS』を使用した場合、添加量の増加に伴い表面固有抵抗値が低下し、表面固有抵抗値を1010 Ω以下にすることができる。LDPEへの分散性に優れるため、フィルムの外観や樹脂物性にも悪影響を与えない。

ペレクトロンLMP-FSとペレクトロンPVLのヒートシール温度と強度を比較する折れ線グラフ
図4 『ペレクトロンLMP-FS』のヒートシール性評価

試料作成方法: LDPE樹脂/メタロセン系プラストマー/帯電防止剤=70/20/10(質量比)のドライブレンド物をインフレーションテスト機で成形し試料とした(ダイ温度: 170℃、ブロー比: 2.0、フィルム厚: 約100μm)。

評価方法: 得られたフィルムを両側、温度120 - 140℃、時間1s、圧力98kPaの条件でヒートシールし、15mm幅のヒートシール部位を100mm/minの剥離速度で剥離し、ヒートシール強度を測定した。

『ペレクトロンLMP-FS』は、従来のオレフィン樹脂用高分子型帯電防止剤『ペレクトロンPVL』に比べてヒートシール強度を大幅に向上できる。

『ペレクトロン』シリーズの主な製品

表2 『ペレクトロン』シリーズの主な製品

製品名ペレクトロン ASペレクトロン HSペレクトロン PVLペレクトロン LMP-FS(開発品)
組成ポリアミド/ポリエーテル共重合体ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体
外観淡黄色ペレット淡黄色ペレット淡黄色ペレット淡黄色ペレット
融点(℃)約195約135約135約115
熱分解開始温度(℃)約285約240約250約250
MFR(g/10min)約30(215℃、21.18N)約10(190℃、21.18N)約15(190℃、21.18N)約15(190℃、21.18N)
表面固有抵抗値(Ω)4×1064×1063×1063×106
対象樹脂ABS、PC/ABS、PC、ナイロンなどPP、PE(射出成形)PP、PE(押出成形)PP、PE(押出成形)

*1 テストプレートを作成後、超絶縁計で測定(23℃、50%R.H.) *2 ABS=アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、PC=ポリカーボネート、PP=ポリプロピレン、PE=ポリエチレン

今後の展開

『ペレクトロン』シリーズは、多種多様な樹脂やさまざまな形状に対して低抵抗領域の帯電防止性を付与できる。今後も高度化する静電気放電対策や防塵対策を背景に、高分子型帯電防止剤の応用範囲は拡大していく。スーパーエンプラや透明樹脂などへ適用できるよう、さらなるラインアップの拡充が進められる。

参考文献

  1. 高井好嗣、静電気学会誌、21(5)、212(1997)
  2. 『帯電防止材料の設計と使用法』、サイエンス&テクノロジー(2007)
  3. 千田英一、成形加工、Vol.17、No.12(2005)
  4. 藤本武彦監修『高分子薬剤入門』、三洋化成(1992)

本記事は三洋化成工業株式会社の許諾を得て転載しています。
出典:三洋化成ニュース 2015 秋 No.492 / 著者:服部 真範(事業研究本部 機能性樹脂研究部 ユニットチーフ)

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