ポリオレフィン系樹脂改質剤

ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂は、生産量が最も多く、日常生活でさまざまな分野に使用されている汎用樹脂の一種である。また、耐薬品性、耐水性に優れる一方で、疎水性であるため高極性の樹脂との相溶性、フィラーとの分散性に劣る。このようなポリオレフィン樹脂の課題を解決するために開発されたのが、当社の『ユーメックス』シリーズである。

『ユーメックス』シリーズは、疎水性のPPのセグメントと親水性の無水カルボン酸のセグメントを有する高変性PPである。

PPのセグメントはポリオレフィン樹脂との親和性、無水カルボン酸のセグメントは、フィラー(ガラス繊維、炭素繊維、木粉など)、高極性の樹脂(ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなど)、などとの親和性があり(図1)、『ユーメックス』シリーズをポリオレフィン樹脂に添加することによって、フィラーの分散性向上、ポリオレフィン樹脂と高極性の樹脂の相溶性向上などが期待できる。

通常、PPへの無水カルボン酸の付加方法は、主にラジカル開始剤を用いて、酸性基を有するモノマーをPPの分子鎖中に付加するのが一般的である。しかしながら、PPは極性基を有していない飽和炭化水素化合物であるため非常に反応性に乏しく、生成物の酸変性度が低い。

『ユーメックス』シリーズは、自社技術(熱分解法)により、分子鎖中および分子末端に官能基を導入して得られるPPオリゴマーに無水カルボン酸を付加して得られるため、汎用的な他の変性ポリオレフィンと比較して、低分子量、高酸変性である特長を有する。このため、『ユーメックス』シリーズはポリオレフィン樹脂と他材料(高極性樹脂、フィラーなど)との界面に効率よく配向しやすく、少量で改質効果を発現させることが可能である。また、『ユーメックス』シリーズは低分子量でありながらもPPと同等の融点を有することから、ホットメルト接着剤の耐熱性向上の用途にも使用されている。さらに、PP基材の塗装の際に『ユーメックス』シリーズを原料としたプライマーを使用することにより、PP基材と塗料の密着性を向上させることができる。このほかにも、『ユーメックス』シリーズは、図2に示すようにさまざまな用途で使用されている。

『ユーメックス』の分子構造(PPセグメントと無水カルボン酸セグメント)を示す模式図
図1 『ユーメックス』の構造
分散性・相溶性・耐熱性・密着性・流動性による用途分類図
図2 『ユーメックス』シリーズの主な用途

用途例の詳細

①『ユーメックス』によるフィラーの分散性向上

ガラス繊維強化PP

ポリオレフィン樹脂にフィラーを添加する目的として、剛性(機械物性)、耐熱性の向上が挙げられる。そのなかで、チョップドストランドしたガラス繊維による強化技術は、複合材としてエンジニアリングプラスチックの領域に近い樹脂物性が観られ、自動車部材などに使用されている。ガラス繊維は一般にシランカップリング剤処理などがされているが、本処理だけではPP樹脂とガラス繊維の密着性は不十分であり、ガラス繊維添加による樹脂物性向上効果はあまり見られない。しかしながら、『ユーメックス』を添加すると『ユーメックス』とシランカップリング剤との親和性により、ガラス繊維とPP樹脂の密着性が向上する。また、一般的な高分子量ポリオレフィン系樹脂改質剤と比較して、『ユーメックス』は低添加量で改質効果を発揮する(図3)。これは、『ユーメックス』が比較的低粘度、高酸変性のためガラス繊維とポリオレフィン樹脂の界面に効率よく配向するためである。

ガラス繊維強化PPにおける添加量と曲げ強度の関係を示す棒グラフ
図3 ガラス繊維強化PPへの添加例

炭素繊維強化PP

「鉄よりも強く、アルミよりも軽い」という特長を有する炭素繊維により強化したPP樹脂は、ガラス繊維強化PPと比較して、高剛性、低密度であるため自動車部材などの軽量化(低燃費化)が期待でき、次世代の部材として近年注目されている。分散剤として『ユーメックス』を使用した時の炭素繊維強化PPの物性を図4に示す。また、『ユーメックス』を添加することにより、炭素繊維とPP樹脂との界面の密着性が向上し(写真1)炭素繊維強化PPの耐熱性も向上する。さらなる高剛性化を目指し、より長い繊維長の炭素繊維を使用した成形法も検討されており、今後、そのような成形法に適した分散剤の開発も進めていく。

炭素繊維強化PPにおける添加量と曲げ強度の関係を示す棒グラフ
図4 炭素繊維強化PPへの添加例
炭素繊維とPPの界面(添加前)の電子顕微鏡画像炭素繊維とPPの界面(添加後)の電子顕微鏡画像
写真1 炭素繊維とPPの界面状態(PP/炭素繊維=70/30)

木粉/PP複合材(WPC)

WPC(Wood Plastic Combination)とは、間伐材などを粉末化したもの(木粉)と合成樹脂との複合化材である。木質性の外観を有し、木材よりも力学的強度、寸法安定性、耐候性、耐火性、耐薬品性、耐摩耗性などに優れるという特長を併せ持ち、主にウッドデッキ、エクステリア関連の用途に使用されている。木粉は高極性のセルロースであるため、PP樹脂との親和性に乏しく、界面の密着性に課題があるが(写真2左)、前述のフィラーと同様に『ユーメックス』を添加することにより、木粉とPP樹脂の界面の密着性が向上する(写真2右、図5)。近年、環境負荷低減のためPP樹脂と容器包装リサイクルポリプラスチックを併用した系も採用されており、今後、本併用系に適した分散剤としての開発にも注力していく。

木粉とPPの複合材断面(添加前)の電子顕微鏡画像木粉とPPの複合材断面(添加後)の電子顕微鏡画像
写真2 木粉とPPの複合例(PP/木粉=50/50)
木粉/PP複合材(WPC)への添加量と物性の関係を示すグラフ
図5 木粉/PP複合材(WPC)への添加例

その他

炭酸カルシウム、シリカ、タルクなどの分散に使用される。

②『ユーメックス』による高極性樹脂との相溶性向上

熱可塑性樹脂の高機能化の一つの手法として、既存の樹脂との組み合わせを簡便なプロセスで行うポリマーアロイ(2種類以上のポリマーで構成される高分子材料)がある。しかしながら、ポリオレフィン樹脂は非極性で、結晶性を有するため他のポリマーとの相溶性が劣り、ポリマーアロイに適用しにくいという欠点がある。『ユーメックス』は主鎖のポリオレフィンに無水カルボン酸を付加していることから、例えば、ポリオレフィン樹脂とナイロンをポリマーアロイ化する際に、『ユーメックス』の無水カルボン酸部分とナイロンの末端アミノ基およびアミド結合との反応物が相溶化剤として働き、樹脂同士の界面張力を下げて、微分散状態にする。『ユーメックス』の添加有無による分散状態の違いを写真3に示す。また、本稿は高極性樹脂としてナイロン樹脂を例に挙げたが、『ユーメックス』を添加することによって、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などとPP樹脂との相溶性向上にも期待できる。

PPと6ナイロンの複合材断面(添加前)の電子顕微鏡画像PPと6ナイロンの複合材断面(添加後)の電子顕微鏡画像
写真3 PPと6ナイロンの複合例(PP/6ナイロン=30/70)

③ホットメルト接着剤の耐熱性向上

ホットメルト接着剤は、溶剤を含まないためVOC(揮発性有機化合物)を削減できる環境配慮型の接着剤である。しかし、非反応型のホットメルト接着剤は、融点が低く、熱可塑性であるため接着後の環境温度(周辺温度)が高くなると接着強度が低下する欠点がある。『ユーメックス』は結晶性PPと同等の融点を有し、高温での密着性向上の添加効果がある。また、『ユーメックス』は低粘度であることから、添加したホットメルト接着剤の粘度調整が容易である。

「低融点ユーメックス」

ハンドリング性の改善や、低い加工温度が要求される用途などで、より低融点のPPが求められている。一般に、PPの低融点化には、PPよりも融点の低いエチレンをランダム共重合する(ランダムPP)方法が知られている。

近年開発されたメタロセン触媒を使用したランダムPPは、低エチレン含量にもかかわらず効率良くランダムPPの結晶性が崩れており、従来のランダムPPに比べ、より融点が低い。

このようなランダムPP(メタロセンPP)を出発原料にした「低融点ユーメックス」も、既存のユーメックスと比較して、低エチレン含量で低融点化できることが特長である(図6)。

各グレードの分子量と融点の関係を示す散布図
図6 『ユーメックス』シリーズの特徴(分子量と融点の関係)

「低融点ユーメックス」は、従来品を使用することでは対応できない、良好なハンドリング性による作業効率や生産効率の向上により、省エネにも大きく貢献できる。また、高温成形が好ましくないセルロース系フィラーの分散など、低い加工温度が要求される用途や、低温での乳化性が期待されるフロアワックス用原料などにも展開が期待できる。さらに、PPセグメント中のエチレンの共重合性が高いためポリエチレンとの相溶性も比較的良好であり、既存のユーメックスが不得意なポリエチレン分野(例えば、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムのポリエチレンへの分散など)の展開が期待できる。

今後の展望

近年、自動車を中心とした輸送機メーカーのさらなる低燃費化、作業性向上のニーズが強い。そのなかで、部材の軽量化による金属部材から樹脂への切り替え要望があり、フィラー含有複合材の剛性アップやグローバル化が進み、さまざまな環境(寒冷地、熱帯地)での作業性の確保も求められている。こういったニーズに応えるため、樹脂改質剤の果たす役割は非常に大きい。また、海外での成型品の高品質化に伴う『ユーメックス』の展開にも大きな可能性がある。今後もこれらのさまざまな要望に対応すべく樹脂改質剤の開発に邁進する。

参考文献1)ネロ・パスクイーニ編著『新版 ポリプロピレンハンドブック 基礎から用途開発まで』(2012、日刊工業新聞社 )

各グレードの外観・融点・溶融粘度・酸価・分子量・用途をまとめた表
表1 『ユーメックス』シリーズの代表性状

本記事は三洋化成工業株式会社の許諾を得て転載しています。
出典:三洋化成ニュース 2016 夏 No.497 / 著者:中田 陽介(機能性樹脂研究部 ユニットチーフ)

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